Interview

●井上さんは『Citizen Soul』(4thミニアルバム/2012年1月)以降でエンジニアを担当されているわけですが、最初にPeople In The Box(以下、People)の音を聴いたのもその頃なんでしょうか?
井上:そうですね。レコーディング前のリハーサルで、初めて彼らの演奏を聴きました。
●そこでメンバーに会った印象はどうでしたか?
井上:演奏能力があることはわかったので、演奏面は全然心配なかったです。実際に彼らと会ってみて、やっぱり寡黙な3人だったので…(笑)。3人とも礼儀正しいんだけど、コミュニケーションのためにわざわざ無駄話はしないというか、必要なことは音楽で語るタイプだなと。だから最初は彼らが何を考えているのか、探りながらでした。
●最初はそういう状態だったんですね。
井上:「こういう音にしたい」みたいな注文はなくて。お互いに音を作りながら“こういうものが出てきた”みたいな感じで、キャッチボールをしている感覚でした。そのキャッチボールのやり方をわりと気に入ってくれたみたいで、1枚作ったらそのまま次作も声をかけてもらって、今に至ります。
●キャッチボールをできる相手というのが良かったのでは?
井上:そうですね。彼らとは、キャッチボールのその投げ合った時の感じが良かったんですよ。お互いに色々な球を持っているので。
●お互いにどんな球を投げても受け取れる。
井上:たとえば僕の変化球をすんなり受け取ってくれたら、僕としては “それもアリなんだ”と新しい発見になって、音作りも幅が広がっていくわけじゃないですか。特に波多野(※Vo.波多野裕文)の感覚は独特だから、そういうところも含めて僕とのやり取りが引っかかってくれたのかなと思います。
●波多野くんが考えていることも、徐々にわかるようになってきたんでしょうか?
井上:いや、まだわからないですよ(笑)。
●ハハハ(笑)。そこはわからなくても支障はないんですか?
井上:そうですね。プレイを聴いて、歌詞を聴いて、メロディを聴いて判断するというのが正しいことかなと思っているので。言葉を使ったコミュニケーションもするけれど、彼らとのやり取りでは、音楽を言葉で説明するよりも、何をやるにしてもまずお互いに聴かせる。たとえば3人が演奏しているのを僕が聴いていてイメージが湧いてきたら、「今回は海の感じがするから(そういう)SEを入れるよ」とあえて説明しないで、音を足して聴いてもらう。
●勝手に入れるんですね(笑)。
井上:レコーディングスタジオに入る前のやり取りで、音が変わることが多々あるんですよね。そういう音を入れてみた時に僕は“海”のイメージだったけど、向こうは“雨音”として認識するかもしれない。それは、彼らの中でこの曲のイメージは“雨”だったということなのかもしれなくて。でもそのお互いのイメージのズレの中で“曲が育つ”という面白さも表現できるバンドだから。余計な説明はほとんどしないですね。
●「こういうふうにして欲しい」と明確に要望することはお互いにないんでしょうか?
井上:基本的に、僕からは要望しないです。“好きなことをやってね”というスタンスで、僕の仕事はそれをまとめることだから。最初の2〜3作ではかなり色々試しましたね。
●具体的にはどういうことですか?
井上:たとえばドラムの音像については、わりとナチュラルで明るめな部屋鳴りのする音色を大吾(※Dr.山口大吾)は好むんですよ。それをあえてタイトにしてみた時に、“どう反応して叩くだろうか?”というのをやってみたり。それは新しいチャレンジになるので、彼は一生懸命に叩き方を研究するんです。そういう音色ひとつについても、キャッチボールだから。行き着くところに向かって、まず枠を広げてあげて、そこから尖らせるのが僕の役目です。
●一緒にやっていく中で、メンバーの幅を広げていっている。
井上:たとえば、健太(※Ba.福井健太)のベースはものすごく上手いんですよ。正確だし、アイデアもすごいし、タッチとか長さのグルーヴもすごい。でも、たとえば楽器をチェロとかウッドベースに変えてみたら、それもまた一生懸命に練習すると思うんです。そういう人ってすぐに上手くなるので、だから色んな楽器に挑戦してみたら、また演奏の幅も広がるかなと思ったりはしますね。
●新しい楽器に挑戦することで幅が広がったりもするわけですね。
井上:最初に3人から出してきた音と歌詞を聴いた時に、“こういう音像にしたら音楽的に幅が出るな”と考えたりもして。僕が「シタールを持っているよ」と言うと波多野が反応して、「じゃあ持ってきて弾いてみようか」となったりする。それで実際に弾いてみると、当然ミュージシャンは新しい楽器がみんな好きだからハマりますよね。そこでハマったら、初めて触った楽器だとしても「録ってみる?」って言うんです。
●上手いかどうかは別として、実際に録音してみると。
井上:上手く弾けていなかったとしても、それはそれで面白いじゃないですか。さらに、その上に健太の弾いたベースのフレーズをサンプリングしてハメてみたり、別の曲で大吾が遊びで叩いている時のドラムの音をハメてみたりしているうちに、1曲できあがったりして。『Weather Report』に、そうやってできた曲が入っていますね。
井上 うに
Recording Engineer
井上 うに
Uni Inoue
レコーディング&ミキシング・エンジニア。2016年は、People In The Box、赤い公園、出雲咲乃、桐嶋ノドカ、椎名林檎、林原めぐみ、FLOWER FLOWER 、やなぎなぎ、らを手掛けている。