Interview

●岡田さんはPeople In The Box(以下、People)の1stミニアルバム『Rabbit Hole』(2007年6月)からアートワークをずっと担当されているんですよね。
岡田:僕は彼らがまだ上京してきたばかりで、CDデビューする前の段階で一度会っているんですよ。Peopleが所属していた前レーベルの作品を僕は数多く担当していたので、そこの代表から「こういう面白いバンドがいるんだけど、やる?」と訊かれて。そこでまず本人たちに会う前に「Alice」のデモ音源を聴かされた時に、僕の中でグッときたんです。すごく面白いなと思ったので「ぜひやりたい」という話をして、そこからメンバーに会うことになったのがスタートですね。
●最初に会った印象はどうでしたか?
岡田:最初に会ったイメージは…、警戒されていたっぽいですね(笑)。当時はまだデザイナーとかアートディレクターというものに対して本人たちも詳しくなかったから、「どこまでやる人なんだろう?」というのもわからなかったと思うんですよ。でも、すんなりコンセプトが決まったのは覚えていますね。波多野くんから「こうしたい」という一言があって、僕が「じゃあ、こんなのはどうだろう?」っていう提案をしたんです。
●そのコンセプトとは?
岡田:『Rabbit Hole』というアルバムのコンセプトと、People In The Boxというバンド全体としてのコンセプトがあったんですけど、波多野くんの中では今後のことも見えていて。もしかしたら今の10年目というのも、イメージできていたんじゃないかな。「ずっとCDのイメージを変えずに行きたいんだ」と言われたんですよ。(リスナーの)部屋にPeopleのCDが置かれた時のイメージが、波多野くんの中にはあったんでしょうね。
●1枚の作品としてだけではなく、ずっと続いていく一連のイメージがあったと。
岡田:実は会う前に一度、曲を聴いた印象と“People In The Box”というバンド名のイメージだけでデザインを作って持って行ったんですよ。でもそれはあくまでも“1枚のCD”としての提案だったので「これは違うね」となって、次に出したのがずっと今に続くスタイルなんです。
●白い背景の上に1枚の写真が配置されるという現在の形ですよね。
岡田:本や写真のように、“何枚並んでもきれい”というイメージにつながるようなものにしていて。その時の波多野くんの一言の“点”から始まって、“線”になり続けているのが今のアートワークですね。だから10年後に見ても、カッコ悪くならないイメージなんですよ。
●時代性に左右されないデザインというか。
岡田:ずっと同じフォーマットで、そこは一切変えていないんです。今作(『Things Discovered』)の初回盤で初めて黒を使ったんですけど…そういえば、『Rabbit Hole』の初回盤には真っ白いスリーブが付いていたんですよ。
●えっ、そうなんですか?
岡田:その中にプラケースを収納しようするとキツすぎて、なかなか抜けないっていう伝説の真っ白なスリーブがあって(笑)。白地に白文字で“People In The Box”とだけ印刷してあるんですけど、今それを持っている方は相当レアだと思います。僕はそのスリーブもすごく気に入っていて。元々は真っ白だったところから、(時間が経ったことで)色褪せて文字が見えやすくなっているんですよ。それも含めて、すごく素敵だなと思いますね。1stで真っ白なスリーブを付けて、その10年後の作品で今度は黒のスリーブを付けるというのも1つ面白いところじゃないかなと。
●そういう経緯を知ると面白いですね。ただ、これまでの作品を並べてみると、『Rabbit Hole』だけテイストがちょっと違う感じもします。
岡田:唯一、メンバーが写真に出ていますからね。当時はまだ前レーベルと僕とのやり取りがメインで、「メンバーを出したい」というのはレーベル側から言われたんですよ。でも2枚目(1stフルアルバム『Frog Queen』/2007年12月)の時にメンバーが「出たくない」という意志を明確にして、そこからは僕とメンバーが直接意見をやり取りするようになったんです。だから『Rabbit Hole』は1枚目ではあるんだけど、“0枚目”なのかもしれない。
●前段階というか。
岡田:『Rabbit Hole』でまず実験があって、そこからスタートした感じですね。でも僕にとっては、“ベストアルバム”でもあるんです。思い入れも深いし、曲も素晴らしいから。メンバーが出ているというのもあって、ある意味ではPeopleの数あるジャケットの中でも特にみんなが気になる作品なんじゃないかなとは思います。実は、見れば見るほど面白いジャケットなんですよ。ただ、“10年後にもちゃんと並べられる”というコンセプトからはちょっとズレていて。10年前の彼らが出ているわけですからね。
●そこはどうしても時代性が出てしまう。
岡田:でもあの“0枚目”があったから、今があるとは思いますね。それも歴史の1つだから。
●『Rabbit Hole』が“0枚目”というイメージからすると、次にリリースした『Frog Queen』が“1枚目”になる…?
岡田:ここからスタートというか。おそらくメンバーもそういうイメージじゃないかな。作品としては僕とPeople In The Boxにとって、あれがスタートかなと思っています。『Frog Queen』から、僕とメンバーとカメラマンのLéonによるアートワークの歴史が始まるっていうのもあって。今のジャケット制作チームの3人が固まったのは、そこからですね。
●その3者でどういうふうに、アートワークを作っていくんですか?
岡田:僕らの作り方って、独特なんですよ。メンバーから発信する時もあれば、僕から言う時もあるし、Léonから言う時もあるっていう、3者の微妙なバランスがあって。3者で話す時もあれば、僕とLéonの2人の時もあるし、LINEでやり取りしている時もあれば、直接会って話す時もあったりして、本当に流動的というか。アートディレクターとして入っているので基本的にまとめ役は僕なんですけど、本当に彼らと一緒になって作り上げていく感じですね。
●最初からそういうバランスだったんでしょうか?
岡田:元々はメンバーの意見を聞いてからのスタートが多かったですが、どちらかと言えば最近は僕とLéonの2人に“任せる”という方向に変わってきたタイミングがあったと思います。そこからはわりと僕ら2人から「こういう感じはどう?」と、メンバーに提案することが多いですね。
●作品ごとにイメージの出発点が違ったりもするわけですよね?
岡田:バラバラです。音楽の後のもう1つの作品作りが、メンバーにとってはここ(※アートワーク)だと思うんですよね。だからアートワークをすごく大事にしていると思うし、結果的にそれが独特な形になっていくというか…。だから、毎回わからないんですよ。僕も会うまでは、自分の中であえてイメージを作らないようにしていて。題名を聞いた上で(言葉の)意味だけは先に調べておいて、Léonと会ってから何となく作品ができていくんです。
●そこで話した時に生まれるものがある?
岡田:Léonとは「この曲が良いよね」みたいなことは全く話さなくて、いつも「今回は明るいよね」みたいな印象から始まるんです。本当はアートディレクターという立場上はPeopleのお客さん全員が良いと思うものを目指さないといけないんですけど、どちらかと言うとその題名から派生される“アート”を作り出すイメージではいますね。そうやって僕とLéonが考えたものに対して波多野くんが感動してくれたら、Peopleのお客さんにも喜んでもらえるんじゃないかって思うから。色んなアートワークをやっていますけど、Peopleはやっぱり独特ですね。
●作品タイトルから“派生”はしているけど、直結はしていない。
岡田:おっしゃるとおりですね。何だろう…? 波多野くんに怒られるかもしれないけど、言ってしまえば…“気分”ですね(笑)。
●ハハハ(笑)。
岡田:作り方は“気分”だと思います。レイアウトも写真も悪いものは絶対に使いたくないという気持ちが根底にある上での、その先にある“気分”っていう。たとえば「こういうのが面白くない?」みたいな。僕らは前作を振り返らないんですよ。だから作り上げていく中で、「あれ? この色って前回も使ったっけ?」みたいになるんです。でも過去の作品を振り返って「この色は以前に使っているからやめよう」とかじゃなくて、まずはその作品のイメージをいったん僕らは作るんですよね。
●何よりも作品から派生していくイメージを大事にしている。ちなみに『Frog Queen』ではキリンの写真が使われていますが、たとえば“キリン”のような具体的な言葉が出てくる場合もあるんでしょうか?
岡田:タイトルが『Frog Queen』だから、普通なら“カエル”(=Frog)に行くじゃないですか。僕も正直、カエルのイメージで来るのかなと思っていて。その時に初めてLéonと組んだんですけど、彼女がいきなり「上野動物園に行って、キリンを撮った」と言って写真を持ってきたんですよ。それをメンバーと僕が見て「これ、良いじゃん」となった…というだけなんです(笑)。
●あ、それだけなんですね(笑)。
岡田:そういうスタートもありなのが面白いんです(笑)。
●タイトルとも関係がない?
岡田:Léonが「キリンを撮ってきた」というのがスタートで、メンバーが「これをジャケットに使おうよ」となって、僕も「良いじゃん!」となって…。そういうノリの部分はすごくありますね。作品だアートだと言っていますけど、さっき話した“気分”っていうのはそういうところなんですよ。
●なるほど。
岡田:僕的に「決まったな」と思ったのが『Ghost Apple』(3rdミニアルバム/2009年10月)で。あれはリンゴの赤よりも、もっともっと鋭い赤を意識しました、ああいう真っ赤なジャケットは嫌がられることが多いんです。実はあそこに写っているのは高速道路の路肩にある汚れた木で、その写真を色加工していて。『Frog Queen』の時はキリンの生々しさを出すように色みを微調整していて、次の『Bird Hotel』(2ndミニアルバム/2008年12月)で魚を使った時は青をすごく出したんですよ。それで『Ghost Apple』の時に初めて全体を真っ赤な色調にしたんですけど、あれはすごく印象的でした。
岡田 考功
Art Director
岡田 考功
Yoshinori Okada
浦和生まれ。INVESTORS CLOUD inc. にて クリエイティヴ・メディア事業部『FIRSTORDER』設立・主宰。音楽、スポーツ、ファッションなど、幅広いジャンルのクリエイティブを手がけ、 キャスティングやPR、企画のプロデュースも行う。雑誌 BARFOUT! にて「コノゴロコミック」隔月連載、OCEANS で「#TATERUガールズ」連載中。

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