Talk

初めてdownyを聴いて以来ずっと、僕はただの熱心なファンでいる。唯一無二の音楽でありながら、聴けば聴くほど根源的な、普遍的な音楽としての魅力に溢れている。バンドという、ある意味限定された音楽形態にありながら、他の何かを参照しないというソングライティングの突き詰め方は、あたりまえだけれど決して簡単なことではない。downyの音楽に対して勇敢な姿勢を僕は尊敬してきたし、ピープルとベクトルは違えど、音楽への向き合い方にはとても刺激を受けてきた。今回、People In The Box10周年企画サイトの対談では、音楽のそういった話が聞けたらと思い、ギターヴォーカルの青木ロビンさんをお招きしました。ソングライティングに対する考え方から、かなり具体的な作り方まで、また今月9日に開催されるenvy、MONO、downyの主催するイベント『After Hours』のことまで、興味深い話がたくさん聞けました。どうぞ、お楽しみください。

波多野裕文

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波多野「ロビンさんとはこれまでも結構呑んでるんで、もう話すことないくらいの感じではあるんですけど(笑)、それでもまだまだ聞きたいことはあって。ロビンさんは、曲作りっていつやっているんですか?」
青木「意外と昼間が多いかな。起きてパソコン立ち上げて、音楽を聴いて、コーヒー飲んで、さあやろうって。逆にギターのフレーズを考えるのは、夜中だね。映画観ながらポロンポロンとギターを弾いて、〈これいいな〉と録り始めたり」
波多野「そもそもの話、downyだったりソロだったり、作品を作ろうって決めてから曲作りを始めるんですか?」
青木「いや、日常的に作ってるね。もちろんdownyの曲はdownyのために作るけど、もう一個zezecoというプロジェクトがあったり、ソロがあったり、進化しようと思ってずっとやり続けている感じで。それこそ沖縄からの往復5時間の移動中も、ずっとトラックを作っているし(註:青木さんは沖縄在住)。秋山くん(秋山タカヒコ/downyドラム)にも僕と同じリズムマシーンのアプリを入れてもらっているから、データを送ればあっちもすぐに確認できるんだ」
波多野「なるほど。バンドの中でギターヴォーカルを担っている人が、まずビートを作っているっていうところが、すごくおもしろいなと思うんですけど」
青木「そうなのかな? 自分ではそれを考えたことがなかった。ずっとそれでしか作ってなかったから。もちろん各々のプレイだったり、メンバーから『こういうフレーズで』って出てきたり、いろんな形でビートができるから、その一個しか作り方がないってわけではないんだけど。リズムセクションを作るときが、楽曲制作の中で一番好きな部分というか、大切にしている部分かなあ」
波多野「downyの音楽を形容するときに、〈変拍子〉だったり〈圧倒的な演奏力〉だったりってすごく言われると思うんですけど、僕はそういった結果として表れるところよりも、むしろそこにいたった経緯に興味があるんです。downyの変拍子って、変拍子にしようと思って変拍子にしているわけではなくて、結果的に変拍子と言われる範疇のものに入ったってだけじゃないかと思ってて」
青木「そうだね。たとえば、適当に遊びながらPCでトラックを作って、思った通りに四分の四(拍子の設定)で打ち込むじゃない? 四分の四(拍子)だけど、実際中身は四分の六(拍子)だったりするわけ。それをみんなに伝えるために初めて、八分の六(拍子)のトラックに書き換えるって感じなの。だから自分の中では、全部四(拍)で取れたりするわけ。それが結局、変拍子になっただけだっていう。だからなんでみんなそんなに、変拍子って言うのかが俺にはわかんなくて。たとえばdownyの新譜の〈檸檬〉って曲は、それこそドラムから思いついて。ハットが訛(なま)っていって、五連符の中にあるって感じなんだろうけど。そのために八分の五(拍子)で曲は書くけど、自分の中では歌は四分の四(拍子)なのよ。もちろんギターは五でやんないと取れないから、歌だけ四分の四(拍子)で走らせて」
波多野「downyに〈弌〉って曲があって。僕がdownyでとくに好きな曲10曲のうちの1曲なんですけど(笑)、あれはロビンさんの中では、バックビート(一般的に4分の4拍子のなかで2拍目4拍目にアクセントがあるビート)なんですよね? ただ、一拍の長さが違うってことなんですよね? なおかつ、一拍の長さが違う中で、その一拍を歌だけ三で割ってるっていう感覚?」
青木「そうそう、シンプルにそういうこと」

波多野「そういう作りの曲って、どう考えても稀有だし、一種の発明だと思うんです。だからこれを簡単に変拍子とひとくくりにすることって、とても違和感があるんです。簡単に変拍子って言うな問題(笑)」
青木「ほんと、なんでも変拍子って言えばいいと思ってる感じだよね。だってさ、今流行ってるヒップホップなんかさ、最早、拍子も無かったりするじゃん? ループを組んで一個のトラックにしちゃうわけだから。実際ズレていたりするけど、それでも俺たちが気持ちよく聴けるのは、ヒップホップの場合は『この曲、変拍子だ』なんて言ったりしないからでしょ? 厳密にいうと、全部モタっている曲の時点で、それ変拍子じゃんってならないといけないというか」
波多野「そうですよね。まさしくdownyの変拍子っていうのは、一般的に言われる変拍子とはちょっと違うと思ってるんです。ビートって、僕の中では円のイメージなんですけど、その円の形が、downyの場合はすごくいびつということだと思っていて」
青木「ループ一個で考える視点で言うと、そうなるよね。リズム隊の2人が、それをなめらかに聴かせるテクニックを持っているから、そうなるんだけど」
波多野「僕はそこもまた、すごくおもしろいなと思うんです。たぶんロビンさんは、ビートをもっと原始的なものとして捉えていて、downyのリズム隊や裕さん(青木裕/downyギター)は、それをもっとロジカルに捉えていますよね?」
青木「ロジカルだけど、意外にも秋山くんが一番なまりや雰囲気を大切にしていると思う。逆に裕さんは、すっごくタイトにスネアとかに当てにいくタイプで、僕は崩していくタイプ(笑)。そしてマッチョ(仲俣和広/downyベース)が間を取り持ってくれて(笑)。こんなふうにメンバーのバランスがいいから、独特なリズムになるんじゃないかなあ。もちろんアルバムごとにテーマが違うから、もっと冷たくしてって言えばもっと冷たくできるけど、秋山くんはオーガニックなものをドラマーとしてちゃんと求めているんだよね。一楽曲としてというより、個人のドラマーの能力として、そういうのが大切というか」
波多野「ロビンさんは、そこをどのくらい尊重しますか? というのも、それぞれが独立したプレイヤーで、プレイヤーとしてのエゴがあって、そこと楽曲の行きたがっているところとがぶつかる部分っていうのが、曲作りの中で出てくるんじゃないかと思うんですが」
青木「だから、ずっとやりとりしているよね。もちろん向こうが言っていることが正しいこともあるんだけど、こっちとしても〈ここのスネアだけは絶対に外したくない〉〈裏に入れたゴーストは絶対ほしい〉とかあったり。じゃないと、自分の中で辻褄が合わないから。相手の意見は尊重しつつ、でもやっぱり自分の大切なことは伝え続けて。それで『こっちのほうがいいじゃん』って、どっちかがあっさり変えることもあれば、どっちも折り合いがつかなくなって、ボツになる曲も出てくる。僕らも遊びでやっているわけじゃないからさ。秋山くんのフレーズ、マッチョのフレーズ、裕さんのフレーズに、いちいちビビるわけで。〈おお、カッコいい!〉って。だから曲が進んでいく。逆に向こうも、自分がアイデアを出したときに『カッコいい』って言ってくれて、曲が進んでいく。お互いが最初のファンであり、お客さんなんだよね」
波多野「うわあ~。それはすごく理想的です」
青木「すごくシンプル。曲が全部完成しているのに『やっぱ変えよう』って言い出す場合もあるんだけど、それは〈この曲いいね〉って思っているからこそで。じゃないと結局、『ああ、いい曲だね。でもやらなさそ
うだね』で終わっていく」
波多野「やり取りの中で曲が進んでいくというのは、すごくわかりますね。ピープルも、大吾がプレイヤーとしてのこだわりをすごく持っていて」
青木「ドラムのアイデアは、波多野くんが持ってくるの?」
波多野「どちらもあります。ただ、最終的にわかったのは、彼が自分で作ってきたもののほうが、めちゃくちゃグルーヴしていて活き活きしているんですよ。だから結局のところ、彼のドラマーとしてのこだわりが、すごく助けになっていますね。大吾がフレーズを持ってくると、僕は僕で〈これは試されているな〉って、良い意味で挑まれている感じになるんですよ(笑)。そこからさらに新しい曲が生まることもあったり」
青木「それはあるよね。けど個人的には、ピープルはベースの子が結構カギになっている感じがするかな。3ピースなのに波多野くんはヴォーカルギターで、ギターに専念できるわけではないから、そこをサポートしつつ、ちゃんとリズムをキープするっていう大切なパートを彼がやっている。波多野くんと大吾くんが勝手に争ったりしている中で(笑)、ちゃんと点でいてくれている感じがするね。音源よりもライヴで特に感じるかな」
波多野「いやあ、まさにその通りですね(笑)。彼が一番自然と音楽を楽しめる人で。だから周りがどうきても、それなりに楽しむ術を見つけることができる。そこにすごく助けられています」
青木「ちゃんとスポットを作ってくれるんだ? それはいいねぇ」
波多野「だからピープルは、彼を中心とした二等辺三角形なんです。彼が真ん中にいて、僕と大吾が上手と下手っていうあのステージの形も、偶然そうなったんですけど、結果的に、すごく理にかなっているなと思いますね。」

青木ロビン
青木ロビン
Robin Aoki
5人編成のロックバンド、downyのVo&Gt。
Dhal、zezecoとしても活動。

http://downy-web.com/