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American Standard、American Elite……福井健太のベース遍歴

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●そもそも健太くんはいつどうやってベースに興味を持ったのでしょうか?
福井:小学校4年生くらいのときに、家にあったGLAYのライブビデオでJIROさんが“SHUTTER SPEEDSのテーマ”のベースソロを弾いてるのを見て、かっこいいなって感動したんです。で、昔地域振興券ってあったじゃないですか? 15歳以下の子供がいる家庭に配られたやつ。あれで親に「ベースが欲しい」って言って、スクワイアの子供サイズのベースを15000円で買ったのが最初ですね。
●地域振興券が一人のミュージシャンを生んでいたんですね(笑)。鵜飼さんはいつから楽器に興味を持ったのでしょうか?
鵜飼:僕は小学校6年生のときにミスチルにハマって、家に父親のギターがあったのでそれを触り始めて、中学でエレキを弾くようになってからは、学校が終わったらギターが弾きたくて走って帰るぐらいにハマってました。そのまま大学でも勉強しないでバンドばっかりやってたんですけど、メンテナンスもろくにしないで、ガシャガシャとノイズが出てるような状態のままライブをやってましたね(笑)。
●そんな鵜飼さんがなぜクラフトマンの道に?
鵜飼:大学4年で就職しないとってなって、最初は教師になるつもりだったんですけど、「俺の人生これでいいのか?」みたいに考え直したときに、やっぱり自分には音楽しかないと思ったんです。でも、ミュージシャンになるっていう選択肢は最初からなくて、もともと自分は美術の教師を目指してて、彫刻とか、粘土でモノを作ったりするのは得意だったので、「ギターも作れるんじゃないか?」って(笑)。普通はそこで「食っていけるのか?」とか考えると思うんですけど、勝負してみようと思って、一回大学を卒業して、専門学校に行き直したんです。
福井:なんでミュージシャンは選択肢になかったんですか?
鵜飼:実家が喫茶店なんですけど、そこでアコースティックのコンサートをやってて、押尾コータローさんがよく出てたり、高田渡さんとかも出入りしてたんですね。
福井:小さい頃から有名な人の演奏を聴いてたんですね。
鵜飼:でも、それが逆に目指さなかった原因かもしれない(笑)。最初からリアルな部分を見てたので、「夢の職業」みたいな感じではなかったんですよね。
●健太くんが職業としてのミュージシャンを意識したのは、ピープルに入るとき?
福井:そうですね。僕も専門学校を出て、音楽をやりたいとはずっと思ってたんですけど、なかなかきっかけがつかめなかった中で、ピープルから声がかかって、そこからプロを目指す形になりました。
●加入の前後でフェンダーのプレシジョンベース(American Standard Precision Bass/以下、プレベ)を買ったそうですね。
福井:加入して、最初のツアーの前ですね。そのとき持ってたのがアクティブのベースだったんですけど、パッシブの方がミッドが強いというか、弾いた音がそのまま出るので、事務所にお願いしていくつか持ってきてもらったのを何本か試奏して、「これだな」っていうのを選びました。ただ、プレベはやっぱり男らしいサウンドが出るんですけど、音作りの多彩さっていう意味ではジャズベース(American Standard Jazz Bass/以下、ジャズベ)が上だと思うので、次の年に今度はフェンダーのお店に行って、今もメインで使ってるジャズベを買いました。
鵜飼:プレベとジャズベはどうやって使い分けてるんですか?
福井:さっき「プレベは男らしいサウンド」って言いましたけど、意外とバラードとか歌ものとの相性がいいんですよね。歌と音域が近いっていうのもあると思うんですけど、わりとゆっくりな、スローテンポの曲の方が馴染みやすくて、今回のアルバム(『Things Discovered』)だと“空き地”っていうカントリー調の曲で使ってます。
●そして、昨年は5弦ベース(American Elite Jazz Bass V)を購入されたと。
福井:サポートの現場が増えてきて、ローE以下の音が欲しいなって思ってたときに、ちょうどフェンダーさんからEliteシリーズが出るっていうことだったので、試しに弾かせてもらったら、すごくよくて。アルバムで言うと、新曲の“木洩れ陽、果物、機関車”と“沈黙”で弾いてます。
●今のアー写で持っているのがEliteですよね。
福井:これまでずっとサンバーストだったので、他の色がいいなって。
鵜飼:70sな雰囲気で、かっこいいですよね。フェンダーはいろんな色が似合うので、そこも魅力だと思います。色によってホントに印象が変わるので、結果それが弾く音にも出ると思うんですよね。いい色だなって思いながら弾いてると、いい音になる。その選択肢がいっぱいあるっていうのは、フェンダーのひとつの魅力だと思いますね。

ミュージシャンとクラフトマンの相互作用、「カスタム」の奥深さ

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●そもそも今回健太くんが対談相手として鵜飼さんをお呼びしたのは、去年から健太くん自身が自分でベースのカスタムを始めたからだそうですね。
福井:そうなんです。最初はシールド作りから始めたんですけど、自分で作ってみると、「ここをこの部品に変えるとこう音が変わるんだ」とか、そういう発見が一回一回面白くて、どんどんハマっちゃって。それでベース本体の内部配線とか、ブリッジも変えて、コンデンサとかにもこだわり出して。
●何か始めるきっかけがあったんですか?
福井:サウンドに関して欲が出てきた中で、先輩のベーシストに「部品変えてみたら?」って言われたのがきっかけですね。
鵜飼:最初は何を変えたんですか?
福井:配線材です。いろんなメーカーのを取り寄せて、いじっては弾いての繰り返し。でも、配線いじるのに一回30分くらいかかるから、前がどんな音だったか忘れちゃうんですよ(笑)。そんなことをずっと繰り返して、一番しっくりくる音を探すって感じですね。
●「10周年」ということで言うと、どこかで楽器に対する意識や接し方が変わったポイントはありましたか?
福井:そうですね……でも最初から、自分の楽器は全部自分でメンテナンス出来るようにしておきたいとは思ってたんです。だから、ライブの度にネックの反り具合を見たり、トラスロッド一回一回いじったり、そういうことはずっとしてましたね。昔トラスロッドをいじる長い鉄のレンチをずっと持ち歩いてたら、飛行機の搭乗口に入るところで鳴っちゃって、「これなんだ?」って言われたことがあります。たぶん、人を殴る棒だと思われたんだと思うんですけど(笑)。
鵜飼:確かに、長くて尖ってますもんね(笑)。リペアの工具も、「それなんだ?」って言われると説明しにくいですね。
●先日は健太くんのジャズベを鵜飼さんがカスタムしたそうですね。
鵜飼:ジャズベはもともと3ノブというタイプなんですけど、それを2ノブに、一番初期のジャズベのタイプに改造してほしいという依頼で。
福井:それをすることによって、コンデンサがひとつからふたつになって、フロントとリアと、ピックアップで違うコンデンサが使えて、それぞれトーンが効くので、さらに音作りが多彩になるんです。
鵜飼:歴史的に言えば、需要に応える形で2ノブから3ノブに変化して行ったわけで、2ノブは扱いづらいっていうのが今の一般的な考え方なんです。なので、2ノブに変えるっていうのはあまりやったことがなかったので、面白かったですし、「2ノブだと独立してトーンが効く」っていう話も、言われてみると「そうだよな」って、再発見できました。
●やはり、実際にミュージシャンとやりとりすることで気付かされる部分も多いですか?
鵜飼:たくさんありますね。やっぱり、ずっと作業場にこもってやってると、現場でやってる人と発想が変わってきちゃうんで、できるだけコミュニケーションをするようにしてます。
福井:無茶なカスタムの依頼とかってありましたか?(笑)
鵜飼:ありますね(笑)。最近で言うと、MIYAVIさんはすごくて、もともと普通のシンプルなテレキャスターだったんですけど、今3ピックアップになって、アームがついてて、サスティナーも入ってます。もともと音色を気に入った一本があって、この音を変えずに改造してくれって話だったんですけど、でもブリッジ変えちゃうといろいろ変わっちゃうので、すごく難しくて。結局、最初の音とはちょっと変わってると思うんですけど、MIYAVIさんの納得いくサウンドをキープしつつ、サスティナーまで入れることができたので、いろいろ勉強になりましたし、そのアウトプットを直に大きなステージで見れるので、すごくやりがいもありますね。

レオ・フェンダーが示した「遊び」の重要性

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●鵜飼さんはアーティスト専属でもメンテナンスやリペアをされているそうですが、「この人の楽器へのこだわりはすごい」という人を挙げると、どんな名前が出てきますか?
鵜飼:同じベーシストで言うと、ハマ・オカモトさんはマニアというか、オタクですね(笑)。もともと彼とはフェンダーに入る前から、プライベートで知り合いだったんですけど、楽器好きが集まって、フェンダーをテーマにマニアックな話をしながら、それを肴に飲むみたいな場があって(笑)。「あの年代のあれって」みたいな話から始まって、メニューを取るオーダーシートの裏に好きなデザインを書き始めて、実際ハマさんがデザインしたピックガードを、僕が作ったこともあるんです。ただ、素人が考えても全然収まりがよくなくて、逆説的に「レオ・フェンダー(フェンダーの創業者)すごい」で終わるんですよ(笑)。ホントに考えられたシェイプなんだなって、改めて気づかされるんです。
福井:フェンダーを弾いてて思うのが、ミッドの抜けの良さと、強く弾いたときに、アタックに実音の部分がちゃんとついてくるっていうか、それって他の楽器だとあんまり感じなくて。だから、フェンダーらしさってどこから来てるんだろうなって考えると、木なのか、ピックアップなのか、ブリッジなのか、それって何なんですかね? ビンテージと最近のモデルでブリッジは違ったとしても、さっき言った部分は共通してるなって思うし。
鵜飼:僕の考えを誤解を恐れずに言うと、アメリカ人らしい大雑把さだと思うんです。そもそもギターって、ヴァイオリンから派生したものなので、その流れで考えると、ギブソンのレスポールとかに行くんです。でも、レオ・フェンダーはラジオ屋のおじさんだったから、ギターの歴史を顧みずに作って、修理できないものはものとして成立しないっていう考え方だった。なので、ネックもダメになったら交換できないとダメだし、生産効率も考えて、ネックをねじで止めちゃうっていう、ありえない発想をしたんです。それまでは、そここそが技術者としての腕の見せ所だったわけですから(笑)。
●ある意味、すごく大雑把な発想をしたと。
鵜飼:ただ、結果的にはそれによって出た音が音楽的で、物理的に考察すると、精度がよすぎると、全部の音が出過ぎて、均一になっちゃうんです。でも、フェンダーに関しては、ある意味大雑把だった分、極端に言うと、ロウエンドとハイエンドが出なくて、ミッドしか出ない。でも、ポピュラーミュージックをやる上で一番大事なのはミッドだと思うので、そこが偶然一致したのかなって。なので、自分がギターを組むときも、ちょっと遊びを入れるというか、遊びが音の色気につながるっていうのはすごく意識してます。
福井:確かに、僕も自分でカスタムしてみて思ったのが、真面目な音に進んでいくと、意外とバンドの中では音の抜けが悪かったりするんですよね。「高性能」とかよりも、ちょっとアクが強いというか、そういう部品を選んだ方が抜けがよくなるし、個性的な音になるんですよね。
鵜飼:ロベン・フォード(アメリカを代表するブルースギタリスト)のエンジニアの話を聞いたことがあるんですけど、絶対どこか一か所に一番安いケーブルを入れるらしいんです。そういうのを入れないと、色気が出ないらしいんですが、福井さんはそれを体感されてるのかなって。
福井:僕はピープルだと結構安いシールドを使ってますね。そっちの方が重要な音が出るっていうか、高いのはハイファイ傾向に寄っちゃうんで、そこは気を使ってます。やっぱり、遊びの部分ってすごく重要で、ライブでもただ曲をやるだけじゃなくて、そこでしかできない遊びというか、そういうのを入れたいっていうのは常日頃思ってますね。
●これまでは主にプレイの面だった遊びの幅が、今は楽器にまで広がってきてるっていうことかもしれないですね。では最後に、ベーシストとして、クラフトマンとして、一番の喜びを感じる瞬間について話していただけますか?
鵜飼:職人の中には、作業場にずっとこもってる「孤高の職人」みたいなのに憧れる人もいると思うんですけど、僕は基本的に現場に出たい人間なんです。音楽が好きで、ギターやベースの音が好きで、それが鳴ってる現場にいたいし、その一員になりたい。でも、ミュージシャンにはなれないから、技術者になったみたいなスタンスなんです。なので、やっぱりライブで自分が携わった楽器の音を聴くことが一番好きだし、喜びを感じますね。
福井:鵜飼さんみたいな方がいてくれるのはバンドにとってすごく重要で、一つひとつのバンドにテックさんだったり、街のリペア屋さんだったり、情報をくれる人がいて、そういう人たちの意見がそのまま反映されることって結構あるので、すごく力強いです。僕が喜びを感じるのもやっぱりステージ上で、自分が弾いた音で人を感動させたいと常日頃思っているので、そのためにも、今後も鵜飼さんとはいろいろやりとりさせていただきたいと思います。
Interview:金子厚武
photo : 後藤壮太郎
鵜飼修平
Fender Music Corporation
Artist Relations Guitar Tech
鵜飼修平
Shuhei Ukai
父の影響で小学生からギターを始める。大学在学中に職業としてギター作りを志し、卒業後、専門学校でギター製作を学ぶ。フェンダーミュージック株式会社入社後はギターテックとして、アーティスト専属で楽器のメンテナンスや修理、カスタムを行っている。